WISE 1534-1043

WISE 1534-1043
WISEが撮影したWISE 1534-1043の固有運動
WISEが撮影したWISE 1534-1043の固有運動
星座 てんびん座
見かけの等級 (mv) 24.5 ± 0.3(Jバンド)[1]
位置
元期:J2000.0
赤経 (RA, α)  15h 34m 30.76516s[2]
赤緯 (Dec, δ) −10° 42′ 37.166″[2]
視線速度 (Rv) −116±4km/s[3]
(全速度238±14km/s[3])
固有運動 (μ) 赤経: −1253.1±8.9ミリ秒/年[4]
赤緯: −2377.0±7.0ミリ秒/年[4]
年周視差 (π) 61.4 ± 4.7ミリ秒[4]
(誤差7.7%)
距離 53 ± 4 光年[注 1]
(16 ± 1 パーセク[注 1])
物理的性質
半径 0.79+0.07
−0.06
木星半径[3]
質量 19-30木星質量[3]
表面重力 4.98±0.08cgs(log g)[3]
スペクトル分類 sdY?[4]
光度 2.27×10−7[5]
表面温度 502±6K[3]
金属量[Fe/H] >-2.0dex[4]
金属量 −2.22±0.05[3]
他のカタログでの名称
CWISE J153429.19-104318.9, WISEA J153429.75-104303.3, The Accident
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WISE 1534-1043(または WISEA J153429.75−104303.3、ニックネームとして "The Accident")[6]は、赤外線でのみ観測できるY型褐色矮星の1つ。Y型とは褐色矮星の中でも最も低温なクラスである。広視野赤外線探査機(WISE)の画像から偶然発見された。

地球から50光年離れた位置にあり、秒速200km以上で移動をしている。これは同種の天体の中で2番目に速い速度を持つ天体より25%以上も速い。そしてこれまで観測された褐色矮星の中でも最も独特な色構成を持つ。そのためとても年老いた、金属量の極めて少ない天体だろうと考えられている[7]。2025年1月にメリーランド州のナショナル・ハーバーで開催されたアメリカ天文学会の第245回会合にて、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)によってこの天体を褐色矮星であると確認したことが発表された[8]。

発見

WISE 1534−1043を最初に見つけたのは、オンライン上のシチズン・サイエンスのウェブポータル、ズーニバースの市民科学プロジェクトのバックヤード・ワールドに参加している市民科学者で、普段はコンピューターセキュリティー企業でセキュリティーエンジニアとして働いているDan Caseldenである[9]。 彼はバックヤードワールドから派生して、WISE画像を簡単に表示させて褐色矮星を見つけるための独自のオンラインツール「WISE View」を作成している際、別の天体を観察している際にたまたま同じ画角内を高速で移動するこの天体を発見した[6]。 この天体を褐色矮星であると初めて報告したのは2020年のCatWISEチームによる論文で、2019年にスピッツァー宇宙望遠鏡で追跡観測を行っていた。CatWISEチームの集めた天体サンプルの中でもWISE 1534−1043は最も大きな固有運動を持ち、パロマー天文台のWIRC装置では観測可能な波長が短すぎて検出できなかったことから、この天体が準矮星であることは十分予想されていた[10]。

その後2020年6月8日にはケック望遠鏡のMOSFIRE装置によって、2021年2月8日にはハッブル宇宙望遠鏡の広視野カメラ3で追加で観測され、Jバンドの波長ではこの天体が非常に暗いことが分かった。そしてスピッツァーとハッブル宇宙望遠鏡のデータを組み合わせることでより正確な年周視差と距離が求められ、Y型褐色矮星の可能性が高いことが分かった[4]。

特性

WISE 1534−1043の年周視差の測定から地球からの距離は16パーセクであると分かり、その結果スピッツァーのch2波長帯において絶対等級がとても小さく、温度が低いことが示された。金属欠乏褐色矮星に対する新しい分光モデルでは、その温度は500K(227℃)よりも低いと分かり、Y型褐色矮星に分類されることとなった[4]。

スピッツァーで観測されたch1-ch2の色指数がやや赤色寄りなのは、大気中のメタンが原因で、メタンが波長3.6 μm、つまりWISEのW1・スピッツァーのch1に相当する波長の光を吸収するためこの天体に限らずT型、Y型褐色矮星の色はより赤く見える[11]。 一方でその他の晩期T型矮星やY型矮星のch1-ch2の色指数はWISE 1534−1043と比べてさらに赤く、これはWISE 1534−1043の炭素含有量が低いために大気中のメタンの量も少なく吸収が比較的少ないことで説明できる[4]。

一方、J-W2の色指数が赤いことはJバンドでの等級が暗いことに起因する。金属の少ないT/Y型矮星でJバンドの等級が暗くなる原因として水素分子が引き落こす衝突誘起の吸収放射機構による吸収があり、この吸収は金属量の少ない褐色矮星で近赤外領域の広域にわたって吸収を起こす[12][4]。 追加で観測されたデータによってもWISE 1534−1043のY/Jバンドでのスペクトルが特異であることが示されている[4]。

金属が欠乏しているというシナリオは秒速200kmという高速の接線方向速度を持つことにも合致する[4]。金属量の小さな天体は古い恒星集団に属しているので、銀河中心も周りを公転する軌道は太陽と比べて異なっている。WISE 1534−1043の高速移動はこの天体が銀河ハローに属することを示唆している[4]。

2023年7月12日に出版された論文では、ジェミニ南望遠鏡のフラミンゴ-2装置で2022年4月20日と6月11日にWISE 1534−1043のJバンド等級が最初に正確に測定されたことを報告している。それまでの研究で使用されていた「Jバンド等級」は、近い波長帯を持つハッブル宇宙望遠鏡のF110Wフィルターでの測光値から便宜上推定したものだった[1]。

最もモデルに適合するこの天体の表面温度は400 Kから550 Kの間であり、金属量はである。金属量はさらに小さい値である可能性があり、J-W2の色指数の赤さはこの天体の温度がY型褐色矮星の中でも低い部類である可能性を示している。 T/Y型矮星間の遷移はおよそ485K付近で起こるため、それまでの測光データだけでWISE 1534−1043の確実にY型褐色矮星としての状態を決定することはできず、詳細な物理特性の決定にはJWSTでの分光観測が必要であるとされた[1]。そしてバックヤードワールドの科学者チームの1人であるNSF国立光赤外線天文学研究所のAaron Meisnerが提案したJWSTでの観測はサイクル2と呼ばれる期間に行われることが承認され、2024年7月8日に中間赤外線装置(MIRI)での撮像観測が、7月18日にNIRSpecでの分光観測が実施された[13]。

その結果から、2025年に研究者チームはWISE 1534−1043から、準恒星天体の大気からは初めて、シラン(SiH4)を検出した。スペクトルからはシランの他にもメタンや水蒸気の存在が確認された。金属量の小さい還元性大気を持つことによってシランのような水素化合物が形成されると考えられている。木星と比べて重力が大きいため鉛直方向の物質混合のタイムスケールも短いため、シランがケイ素を含む雲がケイ酸塩の雲と反応いない大気の深層部から表層まで上層してこられる[3]。

WISE 1534−1043は後期T型矮星やY型矮星の中で、最も青いF110W-Jの色指数を持つ[1]。

WISE 1534–1043の測光結果
望遠鏡 フィルター(観測波長帯) 波長(μm) 等級(ベガ等級) 出典
ハッブル宇宙望遠鏡 F110W 1.10 24.695 ± 0.083 [4]
WISE W1 3.5 18.182 ± 0.189 [4]
WISE W2 4.6 16.145 ± 0.084 [4]
スピッツァー ch1 3.6 16.691 ± 0.032 [4]
スピッツァー ch2 4.5 15.766 ± 0.023 [4]
ジェミニ望遠鏡 J 1.25 24.5 ± 0.3 [1]
DECam Y 0.99 >21.79 [14]

正体の推定と判明

当初のこの天体の素性の説明としては極めて低質量で若い褐色矮星とされていたが、若い天体は接線方向の速度は低速な傾向があるため、高い速度を持つ理由をうまく説明できなかった[4]。

それでも前述のように褐色矮星だろうという仮定の下で研究が進んだが、その他に考えられた案としては惑星系から放出された太陽系外惑星に由来する自由浮遊惑星であるという説である。しかし年齢が若く最近放出された太陽系外惑星の質量としては0.3木星質量とモデルで予想されており、重力マイクロレンズサーベイからそのような大質量の放出された惑星は極めて稀な存在であり、太陽系近傍で見つかることはなかなか考えられないとされている[4]。

また黒色矮星ではWISE 1534−1043特有の色を説明できず、天の川銀河よりも古い白色矮星であるという考えや白色矮星が何らかの天体から外層をはぎ取られた後、むき出しになった核だけがはぎ取った天体から離れていったといった極端なシナリオを描くにも、太陽の近傍でそうした珍しい天体を発見することは確率上きわめて困難であった[4]。

最終的に、2025年に発表されたJWSTによる分光観測により、金属が欠乏した褐色矮星であることが確認された[8]。

関連項目

脚注

注釈

  1. 1 2 パーセクは1 ÷ 年周視差(秒)より計算、光年は1÷年周視差(秒)×3.2615638より計算

出典

  1. 1 2 3 4 5 Meisner, A. M.; Leggett, S. K.; Logsdon, S. E.; Schneider, A. C.; Tremblin, P.; Phillips, M. (2023-01-01). “Exploring the Extremes: Characterizing a New Population of Old and Cold Brown Dwarfs”. アストロフィジカルジャーナル 166 (2): 57. arXiv:2301.09817. Bibcode:2023AJ....166...57M. doi:10.3847/1538-3881/acdb68.
  2. 1 2 “WISEA J153429.75-104303.3 -- Brown Dwarf Candidate”. 2026年1月12日閲覧。
  3. 1 2 3 4 5 6 7 8 Faherty, Jacqueline K.; Meisner, Aaron M.; Burningham, Ben; Visscher, Channon; Line, Michael; Suárez, Genaro; Gagné, Jonathan; Alejandro Merchan, Sherelyn et al. (2025-08-20). “Silicate precursor silane detected in cold low-metallicity brown dwarf” (英語). ネイチャー 645 (8079): 62–66. arXiv:2509.18635. doi:10.1038/s41586-025-09369-1. ISSN 1476-4687.
  4. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 Kirkpatrick, J. Davy; Marocco, Federico; Caselden, Dan; Meisner, Aaron M.; Faherty, Jacqueline K.; Schneider, Adam C.; Kuchner, Marc J.; Casewell, S. L. et al. (2021). “The Enigmatic Brown Dwarf WISEA J153429.75-104303.3 (A.k.a. "The Accident")”. The Astrophysical Journal Letters 915 (1): L6. arXiv:2106.13408. Bibcode:2021ApJ...915L...6K. doi:10.3847/2041-8213/ac0437. ISSN 2041-8205.
  5. ↑ Burgasser, Adam J.; Schneider, Adam C.; Meisner, Aaron M.; Caselden, Dan; Hsu, Chih-Chun; Gerasimov, Roman; Aganze, Christian; Softich, Emma et al. (2024-11-02). “New Cold Subdwarf Discoveries from Backyard Worlds and a Metallicity Classification System for T Subdwarfs”. アストロフィジカルジャーナル 982 (2): 79. arXiv:2411.01378. Bibcode:2025ApJ...982...79B. doi:10.3847/1538-4357/adb39f.
  6. 1 2 Cofield, Calla (2021年8月31日). “An Accidental Discovery Hints at a Hidden Population of Cosmic Objects”. NASA 2021年8月31日閲覧。
  7. ↑ Kohler, Susanna (2021年7月2日). “Observing 'The Accident', an Enigmatic Brown Dwarf”. aasnova.org. アメリカ天文学会. 2021年7月12日閲覧。
  8. 1 2 Astrobites (2025年1月16日). “AAS 245: Day 3” (英語). AAS Nova. 2025年1月17日閲覧。
  9. ↑ “Dan Caselden | Citizen Scientist / Security Engineer”. NASA Solar System Exploration. 2021年9月22日閲覧。
  10. ↑ Meisner, Aaron M.; Caselden, Dan; Kirkpatrick, J. Davy; Marocco, Federico; Gelino, Christopher R.; Cushing, Michael C.; Eisenhardt, Peter R. M.; Wright, Edward L. et al. (2020-02-01). “Expanding the Y Dwarf Census with Spitzer Follow-up of the Coldest CatWISE Solar Neighborhood Discoveries”. アストロフィジカルジャーナル 889 (2): 74. arXiv:1911.12372. Bibcode:2020ApJ...889...74M. doi:10.3847/1538-4357/ab6215. ISSN 0004-637X.
  11. ↑ Kirkpatrick, J. Davy; Gelino, Christopher R.; Cushing, Michael C.; Mace, Gregory N.; Griffith, Roger L.; Skrutskie, Michael F.; Marsh, Kenneth A.; Wright, Edward L. et al. (2012-07-01). “Further Defining Spectral Type "Y" and Exploring the Low-mass End of the Field Brown Dwarf Mass Function”. アストロフィジカルジャーナル 753 (2): 156. arXiv:1205.2122. Bibcode:2012ApJ...753..156K. doi:10.1088/0004-637X/753/2/156. ISSN 0004-637X.
  12. ↑ Zhang, Z. H.; Pinfield, D. J.; Gálvez-Ortiz, M. C.; Burningham, B.; Lodieu, N.; Marocco, F.; Burgasser, A. J.; Day-Jones, A. C. et al. (2017-01-01). “Primeval very low-mass stars and brown dwarfs - I. Six new L subdwarfs, classification and atmospheric properties”. 王立天文学会月報 464 (3): 3040–3059. arXiv:1609.07181. Bibcode:2017MNRAS.464.3040Z. doi:10.1093/mnras/stw2438. ISSN 0035-8711.
  13. ↑ “Program Information - GO 3558” (英語). STScI. 2023年8月28日閲覧。
  14. ↑ Meisner, Aaron M.; Caselden, Dan; Schlafly, Edward F.; Zelko, Ioana A.; Kirkpatrick, J. Davy; Marocco, Federico (2023-03-03). “Deep DECam Y-band Follow-up of WISEA J153429.75–104303.3 (a.k.a. "The Accident")”. Research Notes of the AAS 7 (3): 36. Bibcode:2023RNAAS...7...36M. doi:10.3847/2515-5172/acc033. ISSN 2515-5172.

外部リンク